香港で英語は通じる?聞き取れない理由と独特の訛り・発音の特徴を徹底解説
香港への旅行や出張を控え、「香港では英語がどのくらい通じるんだろう?」と気になっている方も多いのではないでしょうか。あるいは、ビジネスシーンで香港の方と話す機会があり、その独特な英語に少し戸惑った経験があるかもしれません。
この記事では、まず「香港で英語は通じるのか?」という疑問にていねいに解説します。 結論から言うと、多くの場面で英語は通じますが、その話し方には知っておくべき特徴があります。
その背景にある歴史や、具体的な発音・表現のポイントを理解すれば、あなたの香港でのコミュニケーションは、もっとスムーズで安心なものになるはずです。
目次
結論:香港で英語は通じるが...聞き取りにくい理由
前述したとおり、香港のホテルや主要な観光地、ビジネスシーンなど、多くの場面で英語は十分に通じます。街中の標識や公共交通機関のアナウンスも英語が併記されており、旅行者やビジネスパーソンにとって安心な環境が整っています。
しかしそんな中「通じるけど、香港英語は聞き取りにくい…」と感じる方が多くいらっしゃいます。その感覚は、あなたのリスニング能力だけの問題ではないかもしれません。
その背景には、香港の英語事情に関する以下の3つのポイントが深く関係しています。
相手や場所による英語力の差
ローカルな食堂や市場など、日常生活の場では広東語が中心です。また、後述するように、香港では個人の教育背景によって英語力に差があるため、誰もが流暢に話すわけではありません。
話し方に独特の「特徴」がある
これが、私たちが「聞き取りにくい」と感じる最大の理由です。香港英語には、私たちが慣れ親しんだ英語とは異なる、広東語の影響を受けた独特の発音やリズムがあります。
それは「訛り」ではなく「文化」
この話し方の特徴は、「間違い」というわけではなく、香港の歴史と文化が生んだ言語文化の一部です。この視点を持つことで、相手への理解が深まり、コミュニケーションがより円滑になります。
この記事では、特に2番目の「話し方の特徴」に焦点を当て、その正体を詳しく解説していきます。
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香港英語(Honglish)が生まれた歴史的背景
香港英語のユニークな特徴を理解するためには、まずその歴史的背景を知ることが欠かせません。この深い関係は、150年以上にわたるイギリスの植民地支配にそのルーツがあります。
イギリス植民地時代と英語の浸透
19世紀半ばから150年以上にわたり、香港はイギリスの植民地でした。その間、英語は行政、司法、教育の主要言語として社会に深く浸透し、特にエリート層にとっては成功に不可欠な言語となりました。
返還後も変わらない「公用語」としての地位
1997年に香港が中国に返還された後も、英語は公用語としての地位を維持しています。香港特別行政区基本法によって中国語と共に公用語と定められ、国際金融都市としての香港を支える重要な役割を今も担っているのです。
【聞き取れない原因】香港英語の独特な訛り・発音の5つの特徴
その「聞き取りにくさ」の正体は、主に母語である広東語の音のシステムに影響された独特の発音です。知っておくだけでリスニングがぐっと楽になる5つの特徴を、具体例とともに見ていきましょう。
特徴①:THの音が「D」や「F」の音になる
広東語にないTH音は、別の音で代用される傾向があります。
THの種類 | 香港英語での変化 | 具体例 |
有声音 | [d] (ダ行) | this → dis, that → dat |
無声音 | [f] (ファ行) | think → fink, thanks → fanks |
特徴②:Vの音が「W」の音になる
広東語には「V」の音が存在しないため、唇を丸めて発音する「W」の音で代用されることがよくあります。
- very → wery (ウェリー)
- event → ewent (イウェント)
特徴③:LとNの音が混同される
広東語の一部の地域では「L」と「N」を区別しない影響で、英語でもこの2音が混同されがちです。
- light と night の発音が近くなる
- low と now の発音が近くなる
特徴④:語尾の子音が脱落する
単語の最後の破裂音(p, t, kなど)が非常に弱く、または発音されないことがあります。これが、単語の切れ目が分かりにくい一因です。
- camp → cam (キャン)
- mind → min (マイン)
特徴⑤:アクセント(強勢)の位置が異なる
広東語は強弱アクセントの習慣がないため、英語のアクセントも標準とは異なる場所に置かれることがあります。
- 例:chocolate → cho-co-late (3音節目にアクセント)
- 例:develop → de-ve-lop (1音節目にアクセント)
このリズムの違いが、「知っている単語なのに聞き取れない」現象を引き起こします。
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発音だけじゃない!知っておくと面白い香港英語の独特な表現
香港英語のユニークさは、発音だけに留まりません。長い歴史と多様な文化が交じり合う中で生まれた、香港ならではの単語や表現も数多く存在します。
植民地時代の名残を感じる単語
イギリス統治時代、アジア各地の交易を通じて広まった言葉が今も残っています。
香港英語の単語 | 意味 | 由来・語源の例 |
shroff | 会計係、出納窓口 | アラビア語 ṣarrāf(両替商) |
chit | 小さなメモ、伝票、引換券 | ヒンディー語 chiṭṭī(手紙) |
godown | 倉庫 | マレー語 gudang |
amah | 住み込みの家政婦、乳母 | ポルトガル語 ama(乳母) |
広東語から生まれたユニークな表現
広東語の発想をそのまま英語に置き換えた、香港ならではのクリエイティブな表現もあります。中でも有名なのが、2018年にオックスフォード英語辞典(OED)にも収録されたこの言葉です。
香港英語の表現 | 意味 | 由来・語源 |
add oil | 頑張れ! | 中国語(広東語)「加油」の直訳 |
lai see (利是) | お年玉(が入った赤い袋) | 広東語の音訳 |
「Add oil!」はオックスフォード英語辞典にも収録されており、香港ではごく自然な応援の言葉です。
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香港人の英語力はどのくらい?現地のリアルな英語事情
「香港人はみんな英語がペラペラ」というイメージは、実は少し異なります。英語力には個人差が大きいのが実情です。
日常生活における第一言語は圧倒的に広東語であり、英語を話す機会は必ずしも多くありません。そして、その英語力を大きく左右するのが、中学校以降の教育システムです。
日常会話は広東語が中心
まず理解しておくべきは、香港の日常生活における第一言語は、広東語であるという点です。家族や友人との会話はもちろん、ローカルなレストランでの注文や市場での買い物など、ほとんどの場面で広東語が飛び交っています。
これは、同じく英語を公用語としながらも、多民族間の共通語として日常的に英語が使われるシンガポールとの大きな違いです。香港では、ビジネスや教育、観光といった特定の分野を除けば、英語を積極的に話す機会は必ずしも多くありません。そのため、「誰でも英語が通じる」と期待していくと、少し戸惑う場面あるでしょう。
英語力が分かれる「EMI校」と「CMI校」
香港人の英語力を語る上で最も重要なのが、中学校以降の教育システムの違いです。香港の中学校(中等教育)は、使用される教授言語によって、大きく2つのタイプに分かれます。
EMI校
英語で授業を行う学校のことです。英語の授業はもちろん、数学、理科、歴史といった主要科目のほとんどを英語の教科書で学び、英語で授業を受けます。 伝統的に「進学校」と見なされることが多く、高い英語力を目指す家庭に人気があります。
CMI校
中国語(広東語または普通話)で授業を行う学校です。こちらでは、英語はあくまで「外国語科目」の一つとして学びます。日常生活で使う広東語で学べるため、学習内容の理解がしやすいというメリットがあります。
どちらのタイプの学校で学んだかによって、英語に触れる量と質が大きく異なるため、香港人の英語力には大きな幅が生まれるのです。
EMI校出身者はビジネスシーンでも流暢に英語を操ることが多い一方、CMI校出身者は読み書きはできても、会話はあまり得意ではない、というケースも少なくありません。「香港人」と一括りにはできず、個人の教育背景によって英語レベルは様々であると理解しておくことが大切です。
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まとめ|香港英語の「訛り」を理解すれば、コミュニケーションはもっと楽しくなる
香港英語が聞き取れないのは、多くの場合、広東語の影響で生まれた独特の「特徴」を知らないことが原因です。今回ご紹介した発音パターンを少し頭に入れるだけで、聞き取りやすさは大きく変わるはずです。
香港英語は「間違い」ではなく、香港の歴史と文化が育んだ豊かな言語文化の一つです。その違いを理解し、尊重しようとすることが、真の国際コミュニケーションへの第一歩と言えるでしょう。
この記事が、あなたの香港への理解を深め、現地でのコミュニケーションをより豊かにする一助となれば幸いです。
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投稿者プロフィール

- 英語壱番 代表
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幼少~高校まで語学に興味はなく、大学時代に一念発起し、英語力に磨きをかける。卒業後、某メーカーの海外営業としてインドネシアに駐在し、東南アジアに位置するメーカーに製品の提案、販売に従事。現在は対面、オンラインの双方にて英語を教えている。カナダと中国に留学経験あり。英語のほか、中国語、インドネシア語も堪能。
資格:TOEIC 970、HSK 6級
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