中国語、英語、マレー語を話すマレーシア華人の言語事情

マレーシアの華人

皆さんは、マレーシアが多言語国家であることをご存じでしょうか。この国では、3ヵ国語や4ヵ国語など、複数の言語を自在に操る人が多く存在します。特に目を引くのが華人の方々です。中には5~6ヵ国語を話せる方もいます。なぜ彼らがこれほど多くの言語を話せるのか、私はとても興味を持ちました。

私は以前、マレーシアの華人家庭に居候させていただいたことがあります。その体験を通して、彼らがなぜ多言語話者なのか、そして自分が想像していた以上に多様な人々がいることを知りました。このブログでは、特にマレーシアの華人に焦点を当て、その言語環境について詳しくお伝えします。

この記事は、以下のような方におすすめです。

・マレーシアの言語に興味がある方

・マレーシアについてもっと知りたい方

・多言語に関心がある方

皆さんの参考になれば幸いです。

マレーシアの民族構成

マレーシアは多民族国家

まず本題に入る前に、マレーシアの民族構成について紹介します。ご存じの方もいるかもしれませんが、マレーシアは多民族国家です。主な民族とその構成比率は以下の通りです。

・マレー系:約70%

・華人系:約23%

・インド系:約7%

これらの数値は、日本の外務省が公開しているデータに基づいています。マレーシアの人口は約3,350万人。その約7割をマレー系住民が占めています。これに対して、華人系は少数派であることがわかります。

マレーシアの言語事情

このように、マレーシアは多民族国家です。各民族にはそれぞれの言語があります。ざっくりわけると、

・マレー系:マレー語

・華人系:中国語

・インド系:タミル語

では、これらの民族同士はどのように意思疎通をしているのでしょうか?そこで重要となるのが「公用語」です。

マレーシアの公用語は「マレー語」です。そのため、民族間で会話する時は「マレー語」を使います。1967年までは「英語」も公用語でしたが、現在は「準公用語」とされています。

民族間の会話では、どちらが主に使われるかというと、やはり「マレー語」です。

マレーシアの華人について

華人・華僑・中華の違い

ここから、マレーシアの華人についてお話しします。その前に、用語について少し説明させてください。

「華人」、「華僑」、「中華系」という言葉の違いについて、よく質問を受けます。それぞれの違いは次の通りです。

・中華: 中国人が自国を指す際の美称

・華僑: 中国の国籍を持ちながら、海外に住んでいる人

・華人: 先祖が中国人であるが、中国の国籍は持たず、外国籍を持っている人

日本では「中華系」と書くと「中国人っぽい」というイメージが浮かび、分かりやすいかもしれません。しかし、正確には「華人」という表現が適しています。ちなみに、「華僑」という言葉も彼らを指すのには適していません。

マレーシアの華人たちは、自分たちを「中国人」とは認識していません。あくまで「華人」としてのアイデンティティを持っています。ですのでこのブログでは、彼らのことを「華人」として記述していきます。

多様なマレーシアの華人

さてマレーシアの華人についてですが、彼らの先祖はもともと中国から来ました。では、彼らは中国のどこからやってきたのでしょうか?多くは中国南部をルーツとしています。

マレーシアの華人は、先祖の出身地に基づいて以下のように分類されます。

福建系

中国の福建省あたりにルーツを持つ人たち。福建語を話します。主にマレー半島北部と南部に住んでいる人が多いです。

広東系

中国の広東省あたりにルーツを持つ人たち。広東語を話します。主にマレー半島中部に住んでいる人が多いです。

福州系

中国の福建省の福州市あたりにルーツを持つ人たち。福州語を話します。主にボルネオ島に住んでいる人が多いです。

潮州系

中国の広東省潮州市あたりにルーツを持つ人たち。潮州語を話します。主にマレー半島北部に住んでいる人が多いです。

客家系

出身地は様々。客家語を話します。彼らはマレーシア各地に分布しています。

マレーシア華人の「中国語」

先ほど「マレーシアの言語事情」の項目で、華人系は「中国語」を話すと記しました。この「中国語」には、華人が使う「福建語」や「広東語」も含まれます。厳密には、これらの言語は中国語の「方言」とされています。

ただし、福建語と広東語などの方言は、お互いに意思疎通が難しい場合があります。方言に慣れている場合は別ですが、慣れていない人同士では理解できないことが多いです。

例えるなら、日本語の標準語と東北弁の違いに似ています。字幕がないと、何を話しているのか分からないことがあるのです。

「普通話」は話せるのか?

中国語と言えば、多くの方が中国の公用語である「普通話」を思い浮かべるでしょう。では、マレーシアの華人は普通話を話せるのでしょうか?

結論から言うと、「話せる人もいれば、話せない人もいる」です。現地には華人系の学校があり、これらの学校では授業が基本的に普通話で行われます。そのため、華人系の学校に通った人たちは普通話を話せます。しかし、そうでない人たちは普通話を全く話せないことがあります。

また普通話を知っていても、自分のルーツの言語を第一言語として使う人も一定数います。逆に、ルーツの言語を知っていても、普通話を第一言語として使う人もいます。

私の印象では、40代後半以上の世代は、普通話を知っていてもルーツの言語を主に使う傾向があります。一方、30代やそれより若い世代は、ルーツの言語を知っていても普通話を使うことが多いように感じます。

マレーシアの華人はマルチリンガル

先ほど、マレーシアの公用語はマレー語であると述べました。そのため、学校でも当然マレー語の授業があります。これがないと、他の民族と会話するのが難しくなりますからね。

さらに、準公用語である英語も学校で学びます。特に留学を目指す華人の子どもたちは、英語塾にも通って英語力を高めています。

こうした環境から、マレーシアの華人の中には4つや5つの言語を話す人が多くいます。例えば、広東語、普通話、マレー語、英語を話すといった形です。

また、両親のうち一方が広東系で、もう一方が福建系の場合、広東語、福建語、普通話、マレー語、英語が得意になる華人もいます。

華人の家庭で居候してみた

私はプライベートや仕事でよくマレーシアを訪れます。その際、仲良くなった華人の家庭に居候させてもらうことがあります。そこで、いくつかの家庭で体験した言語事情について綴りたいと思います。

居候先A

マレーシアの北部地域にお住いのご家庭です。家族構成は以下の通りです。皆さんマルチリンガルですが、言語によって得意な順序があるため、それも示しています。

・父: 福建系(福建語=広東語=英語>潮州語=マレー語)

・母: 客家系(客家語=広東語=普通話=英語>マレー語)

・子: 高校生(広東語=普通話>英語>マレー語>福建語=客家語)

「=」は言語力のレベルが同等であることを示し、「A>B」はAの言語力がBより高いことを意味します。この家庭では「広東語」が家族内の共通語として使われていました。

父の言語事情

父は英語とマレー語で教育を受けてきたため、普通話は話せません。しかし、家系が福建系と広東系なので、福建語と広東語は堪能です。ただし、漢字は全く読めません。読めるのはアルファベットだけです。

母の言語事情

母は客家系で、どの言語もそつなく使いこなしていました。

息子の言語事情

息子は華人系の学校に通っており、広東語と普通話が堪能です。家では広東語を話しますが、友人とは普通話を使って会話していました。将来的に留学を目指しているため、英語を熱心に勉強しています。学校では英語の授業に加え、科学と数学も英語で学んでいるとのこと。地元の英語塾にも通い、IELTSの対策をしていました。福建語や客家語は聞けば理解できるものの、話すことは難しいとのことです。

私と会話する時に使う言語

ちなみに皆さん、私と会話する時は英語を使います。私に聞かれたくない家族の話になると、広東語に切り替えて話していました。

他の民族と会話する時に使う言語

マレー系の人と会話する時はマレー語、インド系の人と会話する時は英語を使っていました。

居候先B

続いては、マレーシア中部地域に住むご家庭です。この家庭もマルチリンガルですが、他の華人家庭とは少し異なる特徴があります。

・父: 広東系(広東語=英語>普通話=マレー語>福建語)

・母: 広東系(広東語=英語>マレー語)

・子: 社会人(英語>マレー語>広東語)

父の言語事情

父は広東語と英語を流暢に話します。学生時代は普通話に触れる機会がなかったそうです。社会人になってシンガポールで勤務することになり、30代から普通話を勉強して身につけたとのことです。福建語は聞けば理解できるものの、話すことはできないそうです。また、こちらの父も漢字は読めず、普通話はピンインで覚えていったとのことです。

母の言語事情

母も広東系で、広東語と英語を主に使いこなします。普通話は理解できないと話していました。

息子の言語事情

息子は英語を第一言語としています。学生時代にインターナショナルスクールに通っていました。そのため、ブリティッシュイングリッシュを話します。広東語は少し理解できるそうですが、話すことはできないとのこと。また、普通話も理解できないとのことです。他の華人の友人と会話する際には英語を使うそうです。

私と会話する時に使う言語

この家族の共通言語は英語でした。そのため、私と会話する時は基本的に英語です。

他の民族と会話する時に使う言語

父と母はマレー系やインド系の人と会話する時にはマレー語を使用していました。息子は、相手が英語を流暢に話せる場合は英語を使い、そうでない場合は英語とマレー語を混ぜて話していました。

居候先C

最後に紹介するのは、マレーシア南部地域に住むご家庭です。ここでも他にはない独特な言語環境を体験しました。

・父: 福建系(福建語=普通話>マレー語>広東語)

・子: 社会人(福建語=普通話>マレー語)

・子の嫁: 社会人(福建語=普通話>マレー語)

父の言語事情

父は福建語と普通話を同等のレベルで流暢に話せます。学生時代にあまり英語の勉強に注力しなかったため、英語はほとんどできません。広東語は20~30%ほど聞いて理解できるそうですが、話すことは難しいとのこと。漢字は問題なく読めるそうです。

息子の言語事情

息子も学生時代、英語の勉強に力を入れていなかったため、英語は話せません。華人系の学校に通っていたため、普通話を流暢に話せます。

息子の嫁の言語事情

息子の嫁も同様に英語は話せず、普通話を第一言語としています。

この家庭の共通言語

この家庭で興味深いのは、父と子供が会話する時にお互い異なる言語を使うことです。父が息子や息子の嫁に話しかける時は福建語を使いますが、息子と嫁は普通話で応答します。

息子に「なぜ福建語で応答しないのか?」と聞いたところ、「普通話の方が若い世代には一般的で、ファッショナブルだから」とのことでした。親はルーツの言語で話し、子供は普通話で応答する。こういった光景は、他の家庭でもよく見られるとのことです。

私と会話する時に使う言語

私と会話する時は父を含め、普通話を使用していました。

他の民族と会話する時に使う言語

この家族は、マレー系やインド系の人と会話する時はマレー語を使用していました。

居候して分かったこと

これらの家庭に長期間滞在させていただき、感じたことが3点あります。

・他の民族コミュニティとの交流がほとんどない

・家庭によって英語力がまちまち

・ルーツの言語が将来なくなるのでは

他の民族コミュニティとの交流がほとんどない

マレー系やインド系のコミュニティとの交流はほとんどありませんでした。唯一、居候先Aの父親と居候先Bの息子が他の民族と交流している様子が見られました。居候先Aの父親はインド系(タミル人)の文化が好きで、時折インド系の方々と集っていました。一方、居候先Bの息子は、マレーシアに滞在しているさまざまな国々の人々と交流していました。

しかし、その他の家族は基本的に華人コミュニティ内で生活していました。つまり、公用語のマレー語や準公用語の英語を使う機会がほとんどないのです。マレー語に関しては、物を注文したり道を尋ねたりする際に少し使う程度。あくまで生活に支障を来さないレベルにとどまっています。そのため、マレー語はマレー系の人々ほど流暢ではないことが分かりました。

マレーシアの華人はマレーシア人であるものの、マレー語は彼らの第一言語ではないのです。

家庭によって英語力がまちまち

家庭によって英語力に違いがありました。英語が話せなくても、コミュニティ内の言語を話せれば生活に困らないことが分かりました。各家庭の英語力には、親の教育方針が大きく影響しているようです。

ただ驚いたのは、居候先Aの息子です。留学経験がなく、普段あまり英語を話す機会がないにもかかわらず、意思疎通できる程度の英語力を身につけていたからです。確かに、マレーシアでは日本に比べて英語を学び始める年齢が早いですが、それでも留学せずに国内だけで意思疎通できる英語力を磨けるのは新鮮でした。このような環境で育った彼の存在は、英会話の講師として非常に興味深いものでした。

ルーツの言語が将来なくなるのでは

ルーツの言語が将来的に消滅してしまうのではないかと思いました。居候先Aの家庭では広東語が家族の共通語でしたが、息子は友人と会話する際には普通話を使用しています。他の家庭の若い世代も、英語や普通話を主に使っています。

このような状況から、徐々にルーツの言語が普通話や英語に取って代わられ、最終的には消滅してしまうのではと感じました。

まとめ

今回は、私の実体験に基づき、マレーシア華人家庭の言語事情を紹介しました。それぞれの家庭で全く異なる言語環境が広がっており、大変興味深い体験をさせてもらいました。日本ではなかなか経験できない環境で、毎日が驚きの連続でした。

皆さんも現地の方々と交流し、新しいマレーシアの一面を発見してみてください。このブログを通じて、マレーシアの華人について少しでも理解が深まれば幸いです。

参考文献

外務省 マレーシア基礎データ

華僑・華人を知るための52章, 山下清海著, 明石書店

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